この宇宙の御胸に抱かれる時、この頂に横たわり風の音に耳をすませる。冬、降り続く雪は夏には雪渓となり春には麓の田畑へと流れ民の生活を潤す。それは風の音だけが知っている秘密。
日本海から一気に2236m駆けのぼる独立峰、鳥海山。時に火山であり怒れる山となり、時に膨大な雪解け水とミネラルで五穀豊穣をもたらす恵みの山でもあるこの山は、神々しい神秘に満ちている。裾野は広く一度の巡礼でクルマの山麓走行距離だけでも700kmに及ぶこともある。
この広大な山域に大規模なリゾート開発の話が持ち上がったことがある。この開発を凍結させたのはイヌワシである。希少性の高い猛禽類で国内でも生息数は少ない。今でも多くのイヌワシ愛好家がこの地を訪れる。イヌワシがこの山を救った、そう言い切っても過言ではない。スキー場などはすでに既存のものがあるし、一度切り倒したブナ林は最低100年元に戻らない。イヌワシは神々の化身であり、この地を見守っている。
地元の人々はイヌワシとの共存を選択した。その後も相次ぐ開発問題が発生するが、現在のところ大規模な開発には至っていない。道路はあるものの本州では大開発の手を逃れた数少ない山である。あなたはイヌワシとの共存と開発、どちらを選択するだろうか。風の音だけがイヌワシの行く末を見守っている。
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陽の光降り注ぐ日光は美しい。
春、新緑は萌え躑躅が咲き乱れ、滝という滝は水量を増す。盛夏来る頃雲湧き踊り緑深まる。夏草は萎れることなく太陽に向かい日差し浴びる。秋、山の谷間より光細きこと繊細なり。紅葉はスポットライトで輝けり。冬将軍到来しけり頃深い雪に埋もれる。厳しくも優しさあふれる冬景色なり。
神代の国から引き継がれる日光はささやかな美にあふれている。
この手のひらにこの唇にふわり、木々も山も谷も埋め尽くして時を刻むように雪が重なっていく。風に舞う結晶は白い天使たち。時に青く時に赤く染まる雪原は天然のキャンバス。もしも魂が彷徨なら粉雪のように浮遊するのだろう。睫毛がパリッと凍てつくのは、きっと私を澄んだ気持ちに変えてくれるのだろう。まるですべてが死んでしまったかのような世界は、春命輝く時のためにじっと眠るのだろう。虚しさを拭うため、澄んだ気持ちに変えるためか、何かを救うためか、この雪道を辿るのだろう。すべては鉄の扉開くため、自分を変えるため、白い奇跡と出逢うためアルバムを綴っていく。キミが話してくれる切ない物語は心温まる記憶の海に包まれている。
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あなたの神は誰ですか 敬う人は誰ですか
私の尾瀬の写真を見て、何処の長閑な里山ですか?と、よく聞かれる。しかしここは世界でも屈指の高層湿原。私は未だに初めて尾瀬を訪れた時の印象が脳裏に焼き付いて剥がれない。誰に育てられるでもなくニッコウキズゲが咲き誇り、それは黄色い絨毯とソウルフルブルーな青空とのコントラストだった。知らなかった。日本にこんな世界があるなんて。この世に神がいるならば、いや、神仏には縋らぬが、否定もしないが、こんな世界があるならば神はこの世に舞い降りて、人々に散華させるだろう。以降、私の尾瀬巡礼が始まる。
この尾瀬は緻密な自然環境の仕組みのもとに成り立っている。少しでも自然の秩序が乱れると忽ち崩壊してしまう。厳冬期は極北の寒気にも負けぬ厳しさのもと、植物は鎧を纏い雪解けを待つ。遅い春の訪れとともに一気に生命の息吹は花開く尾瀬は人々を魅了する。人類はこのような類い稀な世界を消失してはならないのである。もしも願いがひとつかなうなら地球上にある尾瀬のような素敵な自然が永遠でありますように。
1984年9月14日 08:48 長野県西部地震 M6.8が、発生した。犠牲者は29名にも及ぶ。この時、御嶽山の一部が崩れて土石流となり、約10kmも流れ落ちた。標高差は、約2000m。大量の土砂は、王滝川へと流れ込み、川をせき止め、天然のダムの状態になった。通称「自然湖」は尊い犠牲者の上に美しい景観を作り出した。立木は年々朽ち果ててゆき永遠の美しさは続かない儚さを感じさせる。
自然湖は月光の深夜が神秘的である。湖底からは何かが浮上してきそうな、月の雫が落ちて波紋が広がりそうな、不思議な世界である。
木曽福島の美しさは自然湖の景観にとどまらず、水の美しさにあると言いきってもよいだろう。御嶽山系から流れ出る水は各所に滝や清流を作り、山域全体、霊場として昔から祀られてきた。おどろおどろしくも人間の生き死に等をどうしても思慮してしまう聖域である。一体いつから霊峰と呼ばれているのだろうか。日常に散らばる神秘の奇跡的な答えをひとつひとつ探すような空気感だった。
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冬の使者、白鳥。渡り鳥の到来には日本の冬を生き物を通して感じさせてくれる。実際に白鳥の飛翔を見ると、白鳥の湖などに代表される、白く気高く繊細なイメージとはかけ離れ、実に生き生きとしたダイナミックな美しい野生を感じさせてくれる。
今から20年前、羽ばたく白鳥を写真に捉えるのは技術的に大変難しいことだった。ところが現代の最新鋭機であるデジタルカメラを用いることによって、自分のイメージする姿を比較的簡単に撮影することができるようになった。簡単に捉える事ができるようになった現在、さらなる白鳥の魅力に迫りたい。
日本に限らず、世界には山岳信仰がある。日本の場合、穏やかな美しい山容とは裏腹に平野部や山間部に暮らす人々に多大な影響を与えてきた。
地滑り、洪水、干ばつ、豪雪、火山、地震、雷。気象現象や活火山は、これすなわち農耕民族の日本人にとって切っても切り離せない因果関係がある。そのほとんどが山と関係したことであるから、太古の昔より人々は山になみなみならぬ関心を寄せていたに違いない。
生活に直結することで人力ではどうにもならないこと、これらは「神」なる存在で崇められていたに相違ないだろう。神々しい山岳地帯から人類が受け入れられる美しさと同時に、山岳信仰の原点に迫りたい。
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日本には亜熱帯から亜寒帯まで、氷河以外は実に豊かな自然環境を有している。その中でも屋久島は世界でも例を見ない独特の自然にあふれている。サンゴ礁の海岸線から冬は雪を降らせる山岳地帯。中でも巨大杉の原生林は世界的にも貴重な遺産だ。
時空を超えた超絶した生命体を感じていきたい。それがこの島にはあふれている。苔ひとつとっても本島のそれとは異なり独自の発達を遂げている。それは水を極限まで蓄える、生命の不思議に満ちている。人間の一生からは想像もできない大自然の不思議に迫りたい。